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宮崎地方裁判所 平成3年(ワ)46号 判決 1992年10月26日

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の各土地につき、昭和五一年七月二一日都市計画法第四〇条二項による帰属を原因とする所有権移転登記手続きをせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

理由

【事 実】

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求

主文と同旨

2  予備的請求

(一) 被告は原告に対し、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件係争土地」という。)につき、昭和五〇年一〇月二七日寄付を原因とする所有権移転登記手続きをせよ。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  主位的請求についての請求原因

(一) 被告は、本件係争土地のもと所有者であり、登記簿上の所有名義人である。

(二) 訴外南日本綜合開発株式会社(以下「訴外会社」という。)は、本件係争土地を含む一団の土地(以下「本件関係土地」という。)の宅地造成を行い分譲する目的で、都市計画法(以下「法」という。)二九条に基づく開発行為の許可申請をするため、昭和五〇年九月二九日、開発区域内に含まれている農道の管理者である運輸省国有財産部局長宮崎県知事に対し、法三二条の規定に基づく同意申請をなし、かつ同日、宮崎市長に対し、右規定に基づき「開発行為により設置される公共施設の管理」について、別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)を公園(緑地)とし、同目録記載のその余の土地(以下「本件残余土地」という。)を道路とし、いずれも原告の所有に帰属させること等を内容とする協議(以下「本件協議」という。)の申出をなした。

(三) 被告は訴外会社に対し、昭和五〇年八月ころ、右(二)の申請及び申出に関して、本件土地を公園(緑地)とし、本件残余土地を道路として、いずれも原告の所有に帰属させることを内容として含む法三三条一項一四号の同意(以下「本件同意」という。)を与えた。

(四) 昭和五〇年一〇月二七日、本件協議が行われ、前記内容に従つて、宮崎市長より法三二条の開発行為の同意がなされた。また、同年一一月七日、宮崎県知事より同様に同条の規定による同意がなされた。

(五) 訴外会社は、昭和五〇年一〇月二二日、本件関係土地につき、宮崎県知事に対し、法二九条による宮崎広域都市計画市街化区域内における開発許可申請をなし、同年一二月二日、宮崎県知事の許可を得た。

(六) 右開発行為につき、訴外会社は、昭和五〇年一二月三日、宮崎県に対して工事着手届をなし、宅地造成は昭和五一年五月一七日に完了した。同年七月七日、宮崎土木事務所より、右開発行為に関する工事の検査があり、同月九日、開発行為に関する工事完了検査済証の交付が行われた。ついで、宮崎県知事は、同年七月二〇日、法三六条三項による工事完了公告を行なつた。

(七) 本件係争土地は、いずれも法四〇条二項に定める「公共施設の用に供する土地」に該当する。なお、同条項は、公共施設の用に供する土地であつても、開発許可を受けた者が管理する土地は地方公共団体に帰属しない旨を定めているが、この規定が適用されるのは、法三二条に定める協議にあたり当該土地の帰属を特に定めなかつた場合のみであり、本件のように、右協議において原告に帰属する旨が定められている場合には適用の余地がない。

(八) よつて、原告は被告に対し、法四〇条二項により取得した所有権に基づき、本件係争土地につき同条同項による帰属を原因とする所有権移転登記手続きを求める。

2  予備的請求についての請求原因

(一) 被告は、本件係争土地のもと所有者であり、登記簿上の所有名義人である。

(二) 被告は訴外会社に対し、昭和五〇年六月一六日ころ、本件係争土地を原告に帰属せしめることについて、代理権(以下「本件代理権」という。)を授与した。

(三) 昭和五〇年一〇月二七日、本件協議の際、被告を代理した訴外会社は、原告との間に、被告が本件土地を原告に寄付する旨の合意を成立させた。

(四) よつて、原告は被告に対し、右寄付によつて取得した本件係争土地の所有権に基づいて、昭和五〇年一〇月二七日寄付を原因とする所有権移転登記手続きを求める。

二  請求原因に対する認否

1  主位的請求についての請求原因について

(一) (一)、(四)ないし(六)の各事実は認める。

(二) (二)の事実中、訴外会社において、宮崎市長に対し、本件土地を原告の所有とする内容の協議の申出をしたことは否認する。その余の事実は認める。

(三) (三)の事実は、本件土地に関しては否認し、本件残余土地に関しては認める。

(四) (七)の事実中、本件残余土地が「公共の施設の用に供する土地」に該当することは認めるが、本件土地がこれにあたることは否認する。同所記載の法律上の主張は争う。

2  予備的請求についての請求原因について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)の事実は、本件土地に関しては否認し、本件残余土地に関しては認める。

(三) (三)については、本件土地に関しては否認する。本件残余土地に関しては、訴外会社が所有権を原告に帰属させる合意をしたことは認める。

三  抗弁

1  同意ないし代理権授与の撤回

被告は、昭和五三年ころ、本件土地に関して、本件同意ないし本件代理権の授与を取消しないし撤回した。

2  時効取得

(一) 被告は、昭和五一年七月二一日、過失なく本件土地の占有を開始した。

(二) 被告は、昭和六一年七月二一日、本件土地を占有していた。

(三) 被告は、本件土地につき、時効取得を援用する。

3  権利濫用

原告は、本件土地につき、長期間公共用地としての整備等をすることなく放置し、かつ、原告が所有権を取得したと主張する時期から約八年間も被告の所有に属するとして被告から固定資産税を徴収していたのである。これらの事情からすると、原告の本件土地に関する本訴請求は、権利の濫用として許されない。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はいずれも否認する。

第三  《証拠関係略》

【理 由】

第一  請求原因1(主位的請求についての請求原因)について

一  (一)、(四)ないし(六)の各事実については、当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、(二)の事実中、訴外会社が宮崎市長に対し、本件土地を原告の所有とする内容の協議の申出をしたことが認められ、(二)の事実中、その余の事実は当事者間に争いがない。

二  (三)について

1  本件残余土地に関しては、当事者間に争いがない。

2  本件土地について

当事者間に争いがない事実及び《証拠略》によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 被告は、昭和五〇年ころ、本件関係土地を開発してこれを分譲することを計画し、そのために必要な都市計画法上の開発許可の取得手続き及び土地の造成を、右計画を始めに持ちかけてきた訴外会社に一任した。そして、同年八月二〇日ころ、本件関係土地につき、開発行為の施行又は開発行為に関する工事の実施について土地所有者として同意する旨の書面に被告代表者が署名、押印して訴外会社に交付した。

(二) 訴外会社は、右委任に応じて、本件関係土地を区画し道路、公園(緑地)を設けて開発許可を受けることとし、開発申請を行う前にその内容が記載してある図面(以下「本件図面」という。)を被告に見せて了承を得た。本件図面によれば、本件残余土地は道路に、本件土地は公園(緑地)に、それぞれ供されることになつていたが、被告は、特にこれに異議を申し立てることもなく了承した。その際、被告は、少なくとも、本件残余土地について、原告の所有に帰属することとなつており、それに応じないと開発許可を受けることができない旨認識していた。

(三) 訴外会社は、右計画に従つて開発行為の許可を得るため、請求原因1(二)、(四)及び(五)に記載のとおり、本件協議の申出等をし、本件協議、開発許可申請等を経て、昭和五〇年一二月二日に宮崎県知事の開発許可を得た。そして、そのころ、本件図面を被告に示して、右許可を得たことを知らせた。その際も、被告は、本件土地が公園(緑地)として使用されることを認識しながら、特に、異議を申し立てなかつた。

(四) 訴外会社は、右開発許可を取得後、本件関係土地につき請求原因1(六)記載のとおりの手順で宅地造成し、工事完了検査済証の交付を受けた。そして、被告及び訴外会社は、造成された本件関係土地のうちの本件係争土地を除く宅地部分を分譲して、昭和六二、三年ころまでには完売した。

(五) 本件土地が公園(緑地)に供されないのであれば、本件関係土地について開発許可を取得することはできず、したがつて、被告は本件関係土地を分譲することもできなかつた(本件開発区域内の面積は五七一三・二二平方メートルであるところ、右区域内には本件土地以外に公園、緑地または広場は設けられていない。都市計画法施行令二五条六号)。

以上の事実が認められるのであり、これらを総合すると、被告は、昭和五〇年八月二〇日ころ、訴外会社に対し、本件土地を原告所有の公園(緑地)に提供することを内容として本件関係土地の開発許可を取得することを認めたと推認することができる。

もつとも、《証拠略》によれば、<1>原告は、本件土地の固定資産税を工事完了公告の翌日以降も昭和五九年まで被告から徴収しており、被告もこれを納めていたこと、<2>被告は、昭和五五年ころ、原告に対し、本件残余土地の固定資産税を徴収しているのは不当である旨抗議しているが、本件土地に関しては抗議していないことが認められる。しかし、前記認定の各事実に鑑みると、右<1>及び<2>の事実をもつてしては、被告が本件同意を与えていたとの推認を左右するのに不十分である。また、<3>当時、原告においては、法四〇条二項による所有権の移転があつた場合でも、当該土地について特に従前の所有者から申出があるか、又は所有権移転登記手続きが行なわれるまでは、従前の所有者からの固定資産税の徴収が停止しない仕組みとなつていたこと、<4>右認定のとおり、昭和五五年に被告から抗議があつたのは本件残余土地のみについてであつて、本件土地については申出がなかつたこと、<5>昭和五九年ころ、被告が原告に対し、原告が本件土地を原告所有の緑地として取り扱つていることに抗議するとともに、本件土地は被告の所有として課税されていることを指摘したところ、原告は被告に対し、それまでに徴収した本件土地の税金を返還する旨連絡し、以降の徴収も止めたことが認められる。これらを考慮すると、<1>に認定の事実をもつて、原告が本件土地について、被告の所有であることを認めていたと推認することもできない。

したがつて、本件土地についても、請求原因1(三)の事実をみめることができる。

三  法四〇条二項は、市町村等、当該公共施設を管理すべき者(以下「市町村等」という。)への帰属が生じない土地として、「開発許可を受けたものがみずから管理する」土地を挙げている。しかし、右例外規定は、市町村等と開発許可を受けた者との協議により、当該土地について開発許可を受けた者がみずからその所有権を保持してこれを管理するような場合を想定していると解すべきであつて、本件のように、両者の協議により、市町村等への土地の帰属を合意した場合は含まれないというべきである。すなわち、法四〇条二項が、公共施設の用に供する土地の所有権は、原則として、当該公共施設を管理すべき者に帰属すると定めた趣旨は、法三九条において、設置された公共施設は、原則として、当該公共施設の存する市町村の管理に属すると定められていることとあいまつて、公共施設の管理者と所有者とを一致させ、その権利関係を簡明にすることにあると解される。このような法四〇条二項の趣旨からするならば、同条項が「開発許可を受けたものがみずから管理する」場合を除外しているのは、そのような場合には、公共施設の用に供する土地の所有権は、地元市町村ではなく、開発許可を受けた者に帰属するとされることが多いであろうから、この場合にも、管理者と所有者とを一致させるのが相当であるとされたためであると解釈できる。そうすると、本件のように、市町村等と開発許可を受けた者との協議により、土地所有権は市町村等に帰属することが合意され、これを土地所有者である被告も承諾しているような場合には、前記例外規定の適用はなく、土地所有権は法三六条三項の公告の日の翌日に公共施設の原則的管理者である原告に帰属するものというべきである。

第二  抗弁について

一  抗弁1(同意ないし代理権授与の撤回)について

開発行為が完了し、工事完了公告がされた後になつて、被告が本件同意等を取消しないし撤回したとしても、既に生じた法律効果が覆滅すべき理由はない。被告の主張はそれ自体失当である。

二  抗弁2(時効取得)について

第一の二2に認定の各事実に鑑みると、被告は、昭和五一年七月二一日当時、本件土地が原告の所有に属したことを知つていたか、少なくともこれを知り得べき状況にあつたと推認することができるから、占有開始時に被告に過失がなかつたと認定することはできない。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、時効取得の抗弁は認めることができない。

三  抗弁3(権利濫用)について

《証拠略》によれば、本件土地は現在に至るも公共用地としての整備は全くされておらず、また、原告は、昭和五一年七月二一日以降も本件土地に関する固定資産税を徴収していたことが認められる。しかし、税徴収の事情は先に認定したとおりであり、公共用地としての整備がされていないとの点については、弁論の全趣旨によれば、原告がこれを行なつていないのは、本件土地の管理は訴外会社においてなす旨の合意がされていたためであることが認められるから、被告主張の事由があるからといつて原告の本訴請求が権利濫用として許されないとはいい得ず、他にはこれを認めるに足りる証拠はない。

第三  よつて、原告の主位的請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤 誠 裁判官 登石郁朗 裁判官 後藤 隆)

《当事者》

原 告 宮崎市

右代表者市長 長友貞藏

右訴訟代理人弁護士 殿所 哲

被 告 東洋産業株式会社

右代表者代表取締役 中山敬造

右訴訟代理人弁護士 後藤好成

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